下半身の短関節・複合関節種目の筋活動

はじめに

筋電図で計測される筋活動は、筋線維から発生する活動電位を可視化することができます。
筋活動は、その筋が、いつ、どのように、どれぐらいの強度で活動しているのかの手がかりを提供しています。
したがって、特定の筋肉の最大筋力や筋肥大の向上を狙う場合、トレーニング種目の筋活動を理解しておくことは重要です。

当サイトでもこれまでに様々な種類のバーベルスクワットの筋活動を比較した論文を紹介してきました。

今回はレッグプレス、レッグエクステンション、キックバックの筋活動を比較した論文を紹介します。

論文概要

出典

Stien, N., Saeterbakken, A. H., & Andersen, V. (2021). Electromyographic Comparison of Five Lower-Limb Muscles between Single- and Multi-Joint Exercises among Trained Men. Journal of sports science & medicine, 20(1), 56–61. https://doi.org/10.52082/jssm.2021.56

方法
1年以上のレジスタンストレーニング経験を有する15名の男性を対象(年齢:27歳、体重79.8kg、身長:1.82m)

対象種目は片側レッグプレス、片側キックバック、片側レッグエクステンション
全ての種目は6RM(最大で6回挙上できる重量)の負荷で3回実施

表面筋電図を用いて、大殿筋、大腿二頭筋、外側広筋、内側広筋、大腿直筋の筋活動を定量
ただし、片側キックバックは大殿筋、大腿二頭筋のみ片側レッグエクステンションは外側広筋、内側広筋、大腿直筋のみを評価
筋活動レベルは最大随意等尺性収縮時の筋活動をもとに正規化(%MVIC)

結果
・レッグプレスとキックバックの比較
→大殿筋は有意差なし(レッグプレス:88%、キックバック:77%)
→大腿二頭筋はキックバックで高値(レッグプレス:31%、キックバック107%)

・レッグプレスとレッグエクステンションの比較
→外側広筋はレッグプレスで高値(レッグプレス:106%、レクリエーション:88%)
→内側広筋は有意差なし(レッグプレス:93%、レッグエクステンション:79%)
→大腿直筋はレッグエクステンションで高値(レッグプレス:70%、レッグエクステンション:94%)

解説

この論文は、下半身の総合的強化に最適と言われている代表的な複合関節種目であるレッグプレスと短関節種目であるレッグエクステンション(膝関節伸展)・キックバック(股関節伸展)の筋活動を比較しています。
6RMの負荷を用いていることから、比較的高重量を実施したときの筋活動を評価しているのも特徴です。

その結果、短関節種目に比べてレッグプレスでは二関節筋である大腿二頭筋、大腿直筋の筋活動が低かったことを示しています。
これは、レッグプレスの動作と二関節筋の筋肉の働きの不一致が原因だと考えられます。

たとえば大腿二頭筋のうち大腿二頭筋長頭は、股関節と膝関節をまたぐ二関節筋であり、その働きは股関節伸展と膝関節屈曲です。
しかし、レッグプレスの動作では股関節が伸展する際、膝関節は伸展しています。
実際、同じような関節動作のスクワットを用いたトレーニング実験によって、ハムストリングスの筋肉量が増えなかったことも報告されています。

また、論文の著者らはキックバックの大腿二頭筋の筋活動レベルが高かった原因として、膝関節の伸展角度が低い(屈曲角度が大きい)ときに比べて高い(屈曲角度が小さい)ときでは大腿二頭筋の筋活動レベルが高くなるという先行研究の結果を踏まえ、キックバック実施時の膝関節角度が関与していると考察していました。

一般にトレーニングの目的がスポーツパフォーマンスの向上の場合、短関節種目はトレーニング効果の転移が起きにくいと言われています。
しかし、短関節種目には複合関節種目では鍛えにくい筋肉を鍛えられるというメリットがあります。
ボディーメーキングが目的の場合、短関節種目も有効なトレーニング種目になり得ます。

まとめ

下半身の短関節種目は二関節筋を鍛えるのに有効