筋トレ前にSNSを利用するとトレーニング後の認知機能が悪化する

はじめに

これまで、トレーニングやパフォーマンス発揮の直前にSNSを利用する弊害を示した論文を紹介してきました。




SNSを利用するとメンタル疲労が起こり、運動中の主観的運動強度(きつさ)が高まり、パフォーマンスが低下するようです。
ここでのメンタル疲労とは、倦怠感や無気力といった心理状態のことを指します。
また、その悪影響は一過性に留まらず、長期的なトレーニング効果が減弱する可能性も示されています。

有酸素トレーニングやレジスタンストレーニング(筋トレ)によって認知機能が向上する可能性があります。
認知機能は、いくつかの下位機能に分かれますが、そのうちの一つに抑制制御(Inhibitory Control)があります。
筋トレを行うと抑制制御が向上する可能性があり、その機序として、脳由来神経因子(BDNF)やインスリン様成長因子(IGF-1)といったホルモン濃度の増加が関与しているようです。

今回紹介する研究は、筋トレ直前のSNS利用がトレーニング直後の抑制制御に与える影響を検証しています。

論文概要

出典

Lima-Junior, D., Fortes, L. S., Ferreira, M., Gantois, P., Barbosa, B. T., Albuquerque, M. R., & Fonseca, F. S. (2021). Effects of smartphone use before resistance exercise on inhibitory control, heart rate variability, and countermovement jump. Applied neuropsychology. Adult, 1–8. Advance online publication.

方法
男性トレーニー16名を対象

ランダムクロスオーバーデザイン
2条件のトライアルをランダムに実施(ウォッシュアウト期間:1週間)

各トライアルは下記の順序で実施
1)CMJ(垂直跳び)、HRV(心拍変動)、ストループテスト、メンタル疲労度の測定(プレ)
2)実験負荷
3)メンタル疲労度の測定
4)ハーフスクワット、ベンチプレスの実施
5)CMJ、HRV、ストループテスト、RPEの測定(10分後)
6)CMJ、HRV、ストループテスト、RPEの測定(30分後)

実験負荷は下記の2種類
メンタル疲労条件:
スマートフォンでSNSアプリ(例:Facebook, Instagram, Twitter)を30分利用
テキストを読む、メッセージを書く、投稿するといった活動を継続

コントロール条件:
84インチのテレビ画面でオリンピックに関するビデオを30分鑑賞
会話は禁止

ハーフスクワット、ベンチプレスの詳細:
セット数:各種目4セット
重量:15RM
反復回数:10回/セット、80回(合計)
休息時間:3分(セット間、種目間)
測定:Reserve repetition Scale(あと何回出来たかに関する尺度)

結果
・メンタル疲労度
時間・条件による主効果、時間×条件の交互作用あり
実験負荷後の数値はメンタル疲労条件のみ増加、コントロール条件と比べても高値

・ストループテスト
正確性:変化なし
反応時間:
時間・条件による主効果、時間×条件の交互作用あり
メンタル疲労条件の10分後、30分後はコントロール条件の同タイミングより遅かった
メンタル疲労条件の10分後、30分後はプレより遅かった
コントロール条件の10分後、30分後はプレより早かった

・CMJ
時間による主効果あり
両条件でプレに比べて10分後、30分後の跳躍高が低下

・HRV
SDNN、PNN50は時間による主効果あり
両条件でプレに比べて10分後、30分後で低下

・Repetitions in reserve
条件・時間による主効果あり
メンタル疲労条件は全セットでコントロール条件より低かった

・内的トレーニング負荷(重量×RPE)
メンタル疲労条件がコントロール条件よりも高値

解説

この論文の主な結果は、SNS利用後に筋トレをすると、認知機能の一つである抑制制御が悪化(反応時間の遅延)したことです。
一方、筋トレ前にオリンピックに関するビデオ鑑賞をすると、抑制制御は向上していました。

これまでに紹介した研究同様、この論文の測定項目からではメンタル疲労出現のメカニズムの詳細を明らかにできません。
可能性としては、前頭前野のシータ波の増加、前帯状皮質のアデノシン濃度の増加、脳のドーパミン神経伝達受容体の阻害、脳グリコーゼの減少および脳酸素化の減弱といった要因が考えられます。
いずれにせよ、Repetition in Reservesや内的トレーニング負荷の結果で明らかなように、トレーニング前のSNS利用はトレーニングのクオリティを妨げるに違いなさそうです。

また、これまでに紹介した研究同様、この論文でも自律神経の評価指標であるHRVには条件間での差が認められませんでした。
論文の著者らは、高い認知負荷で活性化される主な脳領域は、前頭前野と前帯状皮質である一方、自律神経系の制御で活性化される主な脳領域は、左島皮質、脳幹、小脳であり、メンタル疲労では自律神経系の評価指標は反映しづらい可能性を指摘していました。

まとめ

筋トレ前にSNSを利用すると例え同じレップ数・セット数をこなしたとしても、トレーニング後の認知機能には悪影響が生じる