オリンピックの舞台で5大会連続メダルを獲ったエスキルド・エベセン氏の生理学データ

はじめに

エスキルド・エベセン氏は、デンマークの軽量級ボートの元選手です。
彼は現役時代にオリンピック5大会で5つのメダル(1996年アトランタ:金、2000年シドニー:銅、2004年アテネ:金、2008年北京:金、2012年ロンドン:銅)を獲得した他、世界選手権では6つの金メダルを獲得しました。

彼は、アトランタ五輪出場時では24歳でしたが、ロンドン五輪出場時には40歳でした。
長期にわたり最高のパフォーマンスを発揮し続けた希有の存在です。

今回は、エスキルド・エベセン氏の現役時代の生理学的データを追い続けたケーススタディを紹介します。

論文概要

出典

Nybo, L., Schmidt, J. F., Fritzdorf, S., & Nordsborg, N. B. (2014). Physiological characteristics of an aging Olympic athlete. Medicine and science in sports and exercise, 46(11), 2132–2138. https://doi.org/10.1249/MSS.0000000000000331

対象アスリート
軽量級ボート競技で世界トップクラスの結果を約20年残し続けた男性ボート選手を対象
対象アスリートの身長は1.84m、競技時の体重は72.5kg
2012年に二重X線吸収法で計測された体脂肪率は約5%

測定
19-40歳にかけて測定
年間1-3回ローイングエルゴメーターを用いた最大下・最大テストを実施(2004年と2008年の五輪後の長期休暇を除く)
最大テストの最大酸素摂取量(VO2max)、最大心拍数(HRmax)、最大下強度の運動効率、心拍数などを評価

トレーニング状況
・トレーニングのコンセプトと毎週のトレーニングはキャリアを通してかなり安定
・週間のトレーニング量は約15時間で大部分は水上・ローイングエルゴメーターでのローイングトレーニング
・トレーニング負荷は週平均1500点、合宿中は2000点、主要大会前のテーパリング期は800点
・トレーニング量の15%は有酸素性ピークパワーの15%以上で、残りの85%は低-中強度(
50-80%HRmax)
・VO2max付近でのインターバルトレーニングは年間を通して週3-4回
・2回の長期休暇期間(各20カ月間)は週2-3回のボートセッションに加え、サイクリング・ランニングによる持久系トレーニングを毎日実施することで身体活動量を確保
(長期期間中のトレーニング負荷は週平均1100点、うち400点がローイング特化トレーニング)

測定結果
・VO2max
19歳時が5.5L/min
その後5年かけて5.9L/minまで増加し31歳まで維持
20カ月の長期休暇を経てのトレーニング再開後が5.5L/min
36歳で迎えた五輪シーズンには5.8L/minまで再増加
20カ月の長期休暇を経てのトレーニング再開後が5.5L/min
40歳で迎えた五輪シーズンの準備期には5.9L/minまで再々増加

・HRmax
20歳代前半が180-184拍/分で31-40歳が160-165拍/分
1年間に0.9拍/分のペースで直線的に低下

・最大下ローイング運動時の心拍数
300W時はキャリアの前半が155拍/分、40歳時が135拍/分

・最大下ローイング運動時の酸素摂取量
300W時は25歳で4.57L/min、31歳で4.58L/min

解説

超一流の生理学データを縦断的に追いかけた価値のあるケーススタディです。
本文では、ここにあげた指標の他にも、10秒から60分のパフォーマンステスト、心エコー検査などの結果も報告しています。

加齢に伴う持久系パフォーマンス低下の主要因はHRmax低下に伴い最大心拍出量が落ち、VO2maxが低下することです。
しかし、エスキルド・エベセン氏のHRmaxは加齢に伴い低下したものの、VO2maxは長きにわたり維持していました。
おそらくは、HRmaxの低下分を1回拍出量の増加で補償していたからだと思います。

他のエリート持久系アスリートの場合、キャリアが進むにつれてエコノミー・効率が向上することが報告されていますが、エスキルド・エベセン氏のローイングエコノミーは25歳と31歳でほぼ一定でした。
彼は25歳で既に世界最高レベルの競技力を誇っていたことを踏まえると、キャリアの前半でエコノミーも十分発達していたと考えられます。

パフォーマンスを伸ばし続けることも難しいですが、世界最高峰のレベルを15年以上にわたり、維持し続けたことも凄いです。

まとめ

超一流のボート選手のVO2maxは40歳まで維持していた