長時間の座位行動中の貧乏ゆすりは肥満者の食後血糖値を低下させる

2021年9月30日

はじめに

食後高血糖とは食事をして高くなった血糖値が数時間を経過して元に戻らない状態のことです。
食後高血糖は炎症性サイトカインの分泌を活性化することで血管内皮機能障害を引き起こし、将来の動脈硬化に繋がる要因となります。

以前、運動の種類とタイミングの観点から食後血糖値を低下するアプローチを検証した論文を紹介しました。

その論文では、一般的な労働者に与えられる昼休みの時間の実情を考慮し、運動、食事、休息の総時間が60分で構成されており、比較的取り組みやすい運動の効果を検証していました。

しかし、現実には昼休みの時間が60分も確保できない人も多くいます。
加えて新型コロナウイルスの感染拡大以降に急速に普及した在宅勤務・リモートワークによって仕事中の座位行動時間が増えた人も少なくありません。

今回紹介する論文の著者らは、座位での脚の貧乏ゆすり(Leg fidgeting)が代謝や脚への血流を高める事実をもとに、肥満者が長時間の座位行動中に脚の貧乏ゆすりを行うことで食後の血糖値が低下するという仮説を検証しています。

論文概要

出典

Pettit-Mee, R. J., Ready, S. T., Padilla, J., & Kanaley, J. A. (2021). Leg Fidgeting During Prolonged Sitting Improves Postprandial Glycemic Control in People with Obesity. Obesity (Silver Spring, Md.), 29(7), 1146–1154. https://doi.org/10.1002/oby.23173

方法
一定の選定基準(年齢が20-60歳、BMIが25kg/m2以上、癌・心血管・肺・腎臓・肝臓の疾患を有していない、糖尿病ではない、非喫煙者)を満たした人を対象

7日間以上(閉経前の女性は卵胞期初期に実験を実施)を空けて2回の試行を行うランダムクロスオーバーデザイン
実験開始時のランダム化の時点では37名が対象
最終的なデータ分析対象者は20名

対象者は2条件(貧乏ゆすり条件、非貧乏ゆすり条件)のトライアルを実施
安静時の血液採取、酸素摂取量測定、脚血流(膝窩動脈)測定を行った後に75gの経口グルコース負荷試験を実施
75gの経口グルコース負荷試験から3時間後まで血液採取、酸素摂取量測定、脚血流測定を経時的に実施
加速度計で加速度計数を測定

貧乏ゆすり条件では2.5分間の貧乏ゆすり(自然なリズムで踵を上下させて実施)と2.5分間の休息を繰り返して実施

結果
・貧乏ゆすり条件では安静時と比較して加速度係数、酸素摂取量、脚血流が増加し、非貧乏ゆすり条件に比べても高値を示した
・血糖値とインスリンの総曲線下面積は、貧乏ゆすり条件で低かった
・75gの経口グルコース負荷試験後1時間までの脚血流の増加量と血糖値の総曲線下面積の減少量(貧乏ゆすり条件-非貧乏ゆすり条件)との間には強い負の相関関係があった(r = -0.569)

解説

この論文の主な知見は、BMI25以上の過体重者を対象として、長時間の座位行動中に貧乏ゆすりをすることで脚への血流が高まり、血糖コントロールが改善したことを示しています。

食事で摂った糖質を消費する最大の器官は筋肉です。
この論文の結果は貧乏ゆすりという座りながらできる活動でもエネルギー消費量が高まり、経口グルコース摂取によって血液中に増えた糖質を脚の筋肉が取り込んだことを示唆しています。

なお、論文の考察によると、座位行動中の下肢の貧乏ゆすりによるエネルギー消費量の増加は安静時と比べて約20-30%程度であり、ウォーキングやランニングに比べるとエネルギー消費量の増加の程度は大きくありません。
したがって、食後の血糖値やインスリン濃度のコントロールには、わずかなエネルギー消費量の増加であっても十分な効果が見込めると言えます。

まとめ

食後に貧乏ゆすりをすると、血糖値のコントロールに好影響