糖質が睡眠に与える影響は糖質の内容による

はじめに

以前、日本人の労働者を中心とした集団を対象として、三大栄養素(タンパク質、脂質、糖質)の摂取比率と不眠症症状との関係を検証した論文を紹介しました。


その論文によると、糖質の摂取比率が低い人は睡眠を維持するのを困難に感じていました。
(その他、タンパク質の摂取比率も不眠症に関係)

一言で糖質といっても、その内容によって身体に与える影響は異なる場合があります。
糖質の質を表す代表的な指標としては、食後血糖値の上昇度を示すGlycemic Index(GI値)やGI値に食品に含まれる炭水化物の割合をかけて算出されるグリセミック負荷(Glycemic Load: GL)があります。
なお、炭水化物は糖質に加えて食物繊維を含みます。
食物繊維とは、人の消化酵素では消化できない難消化性成分の総称です。

今回紹介する論文は、Women’s Health Initiative (WHI) Observational Studyという閉経後女性を対象とした大規模観察研究プロジェクトの一環として行われ、GI値、GLと不眠症状との関連を検証しています。

この論文は、Web上での論文の影響度を示すAlmetric Attention Scoreが450を超えており、メディア等でも広く扱われているインパクトの大きい論文です。

論文概要

出典

Gangwisch, J. E., Hale, L., St-Onge, M. P., Choi, L., LeBlanc, E. S., Malaspina, D., Opler, M. G., Shadyab, A. H., Shikany, J. M., Snetselaar, L., Zaslavsky, O., & Lane, D. (2020). High glycemic index and glycemic load diets as risk factors for insomnia: analyses from the Women’s Health Initiative. The American journal of clinical nutrition, 111(2), 429–439. https://doi.org/10.1093/ajcn/nqz275

方法
横断研究は77,860人、縦断研究は53,069人を分析
主な分析除外基準は、居住地域に長期間住む予定がない者、平均余命が3年未満、薬物使用、精神疾患、認知症を持つ者

■食事調査
WHI用にデザインされた145項目の食事摂取頻度調査(WHI FFQ)を利用し下記項目を定量
GI値:ある食品の食後血糖値の上昇度を表す指標
食事性GI値:食事全体の炭水化物系食品の質を表す指標
GL:ある食品に含まれる炭水化物の割合をかけて算出
食事性GL:食事全体の炭水化物食品のGLの合計
食事性添加糖(Dietary added sugar)
全糖(Total sugar)
デンプン(Starch)
総炭水化物(Total carbohydrate)
食物繊維
特定炭水化物含有食品(全粒穀物、非全粒/精製穀物、ジュース以外の果物、野菜、乳製品)

■不眠症調査
5項目から構成されるWHIRSによって定量
ベースラインと3年後に調査
9点以上を不眠症として扱った

■共変量
年齢、人種/民族、教育歴、収入、居住状況、喫煙状況、飲酒習慣、カフェイン摂取量、ストレスフルなライフイベント、社会的サポート、うつ病、身体活動、BMI、糖尿病、高血圧、心筋梗塞、循環器疾患、甲状腺過活動、身体の痛み、ほてり、ホルモン補充療法、いびき

結果
不眠症は、高いGI値、高いBMI、低い身体活動、白い人種/民族、低学歴、低収入、夫またはパートナーとの生活、過去・現在の喫煙、ストレスフルなライフイベント、社会的サポートの少なさ、うつ病、糖尿病、高血圧、心筋梗塞、心血管疾患、喘息、甲状腺過活動、身体の痛み、ほてり、ホルモン補充療法、いびきと関連

完全に調整されたモデルで横断分析した結果、食事性GI値の高さは有病率の高さと関連(五分位数の第1グループと比較して第5グループのオッズ比:1.11)
食物繊維、全粒穀物、ジュース以外の果物、野菜の摂取量の多さは不眠症の有病率の低さに関連
食事性添加糖、非全粒/精製穀物の摂取量の多さは不眠症の有病率の高さに関連

完全に調整されたモデルで縦断分析した結果、食事性GI値は、発症率の高さと関連(五分位数の第1グループと比較して第5グループのオッズ比:1.16)
ジュース以外の果物の摂取量の多さは不眠症の発症率の低さに関連

解説

この論文は閉経後女性を対象として、不眠症に影響を及ぼす可能性がある交絡要因を踏まえた上で検証した結果、血糖値の上がりやすい食事と不眠症が関係することを示しています。
また、不眠症にマイナスの影響を与えていたのは、食事性添加糖や非全粒/精製穀物の摂取量の多さであった一方、食物繊維、全粒穀物、ジュース以外の果物、野菜の摂取量が多いと不眠症の有病率や発症率が低い結果も認められました。
これらの結果は、一言に炭水化物といっても、その中身によって睡眠に与える影響は異なり、GI値の上がりにくい食物繊維が豊富に含まれた炭水化物を摂った場合には、不眠症対策にプラスの影響を与えることを示唆しています。

論文の著者らは、高GI値の食事が不眠症リスクを高めるメカニズムとして、血糖値の上昇に伴う高インスリン血症後に起こり得る血糖値減少に起因すると考察しています。
より具体的には、血糖値減少に伴って、アドレナリン、コルチゾール、グルカゴンなどの自律神経系調節ホルモンの分泌が誘発され、動機、振戦、冷汗、知覚異常、不安、イライラ、空腹感がもたらされる場合があるようです。
また、高GI食は炎症免疫反応を刺激することから、睡眠を阻害する抗炎症性サイトカインを通して、不眠症のリスクを高める可能性もあるようです。
さらに、添加糖は腸内細菌のバランスを崩すことで、睡眠に悪影響を与える可能性があるとも言及しています。

まとめ

血糖値の上がりにくい食事をとると、不眠症のリスクを減らせるかもしれない