持久性アスリートのコンカレントトレーニングにおけるレジスタンストレーニングは疲労困憊まで行わない方が良いかもしれない

2021年8月1日

はじめに

以前、高齢男性を対象としたコンカレントトレーニングにおけるレジスタンストレーニングは、疲労困憊まで実施しなくても十分な効果が得られることを紹介しました。

今回は持久性アスリートを対象とした実験をもとに、スポーツパフォーマンス向上を目的とした場合、どういったアプローチで取り組むべきなのかを考えていきます。

紹介する論文では、競漕(ボート)選手を対象として、上半身の筋力、筋パワーならびに有酸素性能力の改善を目的とした8週間のトレーニング計画において、Training to failure法(疲労困憊まで実施)と二つのNon training to failure法(疲労困憊まで実施しない)の効果を比較検証しています。

論文概要

出典

Izquierdo-Gabarren, M., González De Txabarri Expósito, R., García-pallarés, J., Sánchez-medina, L., De Villarreal, E. S., & Izquierdo, M. (2010). Concurrent endurance and strength training not to failure optimizes performance gains. Medicine and science in sports and exercise, 42(6), 1191–1199. https://doi.org/10.1249/MSS.0b013e3181c67eec

方法
43人の男性ローイング選手を対象
対象者はレジスタンストレーニングのプログラムの違いによって下記の4群に分類
4種目のTraining to failure法グループ(4RF)
4種目のNot training to failure法グループ(4NRF)
2種目のNot training to failure法グループ(2NRF)
レジスタンストレーニングなしのコントロールグループ(C)

レジスタンストレーニングの内容は下記のとおり
頻度:週2回
種目:ベンチプル・シーテッドケーブルロー・ラットプルダウン・パワークリーン(4RF・4NRF)、ベンチプル・シーテッドケーブルロー(2NRF)
強度:75%1RM~92%1RM
セット数: 3~4セット/種目
反復回数:4RF:4~10回、4NRF・2NRF:常に4RFの半分の反復回数で疲労困憊に至る前に終了

持久性トレーニングは、4群ともに同一の内容を実施
(平均トレーニング時間:460分/週、うち低強度87%、中強度:7%、高強度:6%)

8週間のトレーニング前後に下記項目を測定
・身体組成
・ベンチプルの最大筋力とパワー
・20分間ローイングエルゴメーターパフォーマンス
・漸増負荷試験中の4mmolのパワー
・10ストロークの最大パワー

結果
・身体組成
4RFと4NRF:体重・体脂肪・除脂肪体重が減少
2NRF:体重・除脂肪体重が減少

・最大筋力、筋パワー
ベンチプルの1RM挙上重量とパワーは4NRFで増加

・10ストロークの最大パワー
4NRFと2NRFで増加

・20分間ローイングエルゴメーターパフォーマンス
4NRFと2NRFで増加

・漸増負荷試験中の4mmolのパワー
全群で増加

解説

この論文の重要な結果は次の二つです。
・最大筋力や筋パワーに対する効果は4NRFで高い
・ローイングパフォーマンス(持久性パフォーマンス)に対する効果は4NRF・2NRFで高い
そしてこれらの結果は、持久性アスリートを対象とした場合、限界まで実施する半分程度の反復回数でセットを終えた方が、筋機能・全身持久力に対してポジティブな効果が期待できることを示唆しています。
また、最大筋力や筋パワーに対する効果は、2NRFに比べ4NRFで優れていたことから、ある程度の種目数をこなした方がより高い効果が期待できると言えます。

近年発表された多くの論文が筋機能を改善させるためには疲労困憊まで実施する必要がないことを認めています。
そればかりか、Training to Failure法は過度な蓄積疲労をもたらし、次回以降のトレーニングの質を低下させる恐れが高いため、むしろネガティブな影響を及ぼす可能性が高まるとされています。
特に持久性アスリートは、莫大な量の持久性トレーニングを実施していることを踏まえると、レジスタンストレーニングの負荷は慎重に設定すべきです。

この論文では、限界まで実施したときにできる半分の反復回数で良い効果が得られるということから、感覚的にはそこまで追い込まなくても良いので、心理的な負担も低いと考えられます。

まとめ

持久性アスリートのコンカレントトレーニングにおける筋トレは疲労困憊まで実施しない方がポジティブな効果が期待できる