体力のある球技選手は試合後のダメージを軽減できるのか?

はじめに

球技スポーツの選手は、短い間隔で試合に出場し続けるケースがあります。
試合中の身体負荷は球技によって様々ですが、試合後は数日間にわたりダメージ(体力指標の低下、血液指標の逸脱など)が残る競技も多いです。

競技現場では、「強い選手はリカバリーが早い」と言われることがあります。
この場合の「強い」とは、具体化されていないケースもありますが、一般に体力のある選手は、リカバリーに優れると思われています。
ただし、一言に体力といっても実際には構成要素がたくさんあります。

今回紹介する論文では、ゲーリックフットボールというアイルランド発祥の球技スポーツ選手を対象として、有酸素系・神経筋系の体力要素と試合後のダメージとの関係を検証しています。

論文概要

出典

Daly, L. S., Ó Catháin, C., & Kelly, D. T. (2022). Does Physical Conditioning Influence Performance Attenuation and Recovery in Gaelic Football?. International journal of sports physiology and performance, 17(6), 862–870. https://doi.org/10.1123/ijspp.2021-0342

方法
52名の男性ゲーリックフットボール選手を対象
年齢は18-32歳

■ベースライン測定
身長、体重、皮下脂肪厚、スクワットの1RM、ヒップスラストの1RM、ランニングエコノミー(10km走行時の酸素摂取量)、最大酸素摂取量(VO2max)、5mの最大走行速度、20mの最大走行速度、ドロップジャンプ(DJ)、カウンタームーブメントジャンプ(CMJ)

■試合の前(Pre-match)、試合直後、24時間後、48時間後の測定
クレアチンキナーゼ(CK)、CMJ、DJ、主観的体調

結果
VO2max(ml/kg/min)と体重当たりのスクワットの挙上重量の相対値(kg/kg)の中央値をもとにそれぞれ高水準グループと低水準グループに分類

■VO2maxのグループ別の比較
試合前の数値を考慮した上で、24時間後と48時間後のDJ、48時間後のCMJに群間差あり
→高水準グループでダメージが軽微

48時間後のCMJ、DJ
高水準グループでは試合前と同等レベルまで回復していたが、低水準グループは未回復

■スクワットのグループ別の比較
試合前の数値を考慮した上で、試合直後、24時間後、48時間後のDJの接地時間(CT)に群間差あり
試合直後、24時後、48時間後のDJのReactive strength index(RSJ)に群間差あり
24時間後の主観的指標に群間差あり
→高水準グループでダメージが軽微

24時間後、48時間後のCT、RSJ
高水準グループでは試合前と同等レベルまで回復していたが、低水準グループは未回復

その他、RE(RSI、CK)や20mの最大走行速度(主観的指標)なども試合後のダメージに関係

解説

あらゆる体力要素に優れることは、球技選手のパフォーマンスに有益です。
それに加え、この論文では、男性球技選手を対象として、有酸素系や神経筋系の体力要素に優れることが試合後のダメージ軽減にも関係することを示しています。

論文の著者らは、下半身の筋力が高い選手のダメージが軽微だった理由について、次のように考察しています。
「下半身の筋力の高い選手は、優れた機械的特性や細胞外マトリックス機能といった様々なメカニズムによって、試合中の機械的負荷への対処能力が高く、結果として試合後の筋ダメージやそれに伴う筋パフォーマンスの低下を軽減できる可能性がある」

なお、体力の高い選手は、試合中の絶対的な身体負荷が高くなりやすいですが、この論文では、試合中の負荷は定量していないため、その点は考慮されていません。

まとめ

球技選手は有酸素系や神経筋系の体力要素を高めることで試合後のダメージを軽減できる可能性がある