ワールドクラスのランナーが厚底カーボンシューズをはいた時のランニングエコノミー

はじめに

以前、ナイキ社の厚底カーボンシューズの効果を調べた研究をまとめた記事を書きました。

個々の研究目的は様々なものの、平均値でみた場合、ランニングエコノミーが向上する結果は一貫しています。
ただし、個人の数値をみると、変化の度合いには個人差があることも示されています。

今回は、ハーフマラソンの平均タイムが59分30秒というワールドクラスのケニア人ランナー(ケニア人)と欧州のアマチュアランナー(欧州人)を対象として、通常のシューズと厚底カーボンシューズ3種類を履いた時のランニングエコノミーを比較した論文を紹介します。

論文概要

出典

Knopp, M., Muñiz-Pardos, B., Wackerhage, H., Schönfelder, M., Guppy, F., Pitsiladis, Y., & Ruiz, D. (2023). Variability in Running Economy of Kenyan World-Class and European Amateur Male Runners with Advanced Footwear Running Technology: Experimental and Meta-analysis Results. Sports medicine (Auckland, N.Z.), 10.1007/s40279-023-01816-1. Advance online publication. https://doi.org/10.1007/s40279-023-01816-1

方法
15名の男性ランナーが対象
うち1名がトレッドミルのランニングが難しかったため、最終的なデータ分析対象者は14名(ケニア人:7名、欧州人:7人)

対象者の年齢、慎重、体重、最高酸素摂取量、最高酸素摂取量のランニングスピードは下記のとおり(平均値)

ケニア人 欧州人
年齢(歳) 22.7 28.1
身長(cm) 174.3 181.4
体重(kg) 59.9 72.1
最高酸素摂取量(ml/kg/min) 75.9 62.3
最高酸素摂取量のランニングスピード(km/h) 22.3 18.8

シューズは下記の4種類を採用(メーカー、商品名は不明)

シューズ 質量(g) 前足スタック(mm) 後足スタック長(mm) 踵から爪先のドロップ(mm)
厚底1 225 31.5 39 8.5
厚底2 210 29.5 39.5 10
厚底3 196 31 39.5 8.5
通常 197 19 24 5

対象者は2日間のトレッドミル上での実験ランニングを実施
1日目は通常シューズで漸増負荷試験

2日目は最大下強度(ケニア人:75%vVO2peak、欧州人:70%vVO2peak)で6分間走行
条件間で12分間の休息あり

実験とは別に本実験結果も含めて厚底カーボンシューズがランニングエコノミーに及ぼす影響を調べた研究に関する系統的レビュー・メタ分析を実施

結果
■実験
欧州人のランニングエコノミー(酸素コスト)はシューズ間で有意差あり
→厚底カーボンシューズでエコノミーが優れる
(厚底1が3.5%、厚底2が4.6%、厚底3が5.0%)
→厚底カーボンシューズ間では有意差なし

ケニア人のランニングエコノミーはシューズ間で有意差なし

両群ともにランニングエコノミーの変化に個人差が存在
ケニア人の場合、11.4%の利益を得た者から11.3%の不利益があった者が存在
欧州人の場合、9.7%の利益を得た者から1.1%の不利益があった者が存在
(いずれもFLATを基準とした場合)

■メタ分析
5つの研究が選択
全体として、medium effectな効果(-0.58)
→厚底カーボンシューズはランニングエコノミーが向上する

スピード別にみると、
Very low speedがsmall
Loa speedがmedium
Medium speedがMedium
High speedがLarge
な効果

ランナーのレベル別にみると、
ワールドクラスがsmall
アマチュアがlarge
な効果

 

解説

この論文は、競技力がワールドクラスのケニア人を対象とした場合、厚底カーボンシューズを履いても、ランニングエコノミーが向上しなかったことを示しています。
ただし、個人のデータをみると、著しく向上する者もいれば、著しく悪化する者もいました。

読み手として気になる点は、この実験に用いられたシューズのメーカーや商品名ですが、本文には記載がありませんでした。
因みに筆頭著者はAdidas所属。

系統的レビュー・メタ分析のグループ別の分析結果は、研究数が少なく、解釈に注意が必要です。
また、この論文のスピードの定義は、絶対的(スピードそのもの)と相対的(各対象者の走力に対するパーセンテージ)な概念が混在しており、解釈が難しいです。
結果を素直に受け取ると、ワールドクラスのランナーはスピード的にはlargeな効果を受けられそうですが、競技レベル的にはsmallな効果しか受けられないと言えます。

厚底カーボンシューズは間違いなく近年のマラソン界のタイム短縮に貢献していますが、個人差が大きいようです。
したがって、最終的には各ランナーが恩恵を受けられる自分に合った商品を選択するセンスが求められそうです。

まとめ

ワールドクラスのケニア人が厚底カーボンシューズを履いてもエコノミーは良くならない