自重低速筋トレは高齢者の身体組成や筋力を改善させる

はじめに

サルコペニアとは加齢により筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下している状態のことをいいます。
サルコペニアの原因は、加齢や身体活動量の低下、栄養不足の他、様々な疾患の合併が挙げられます。

疫学研究によって高齢者の全死亡率は筋力と強く関係することが示されています。


したがって、加齢に伴う筋肉量や筋力の低下に抗うためにレジスタンストレーニング(筋トレ)を行うことは合理的なアプローチです。

フリーウエイト(バーベル・ダンベル)、専用マシンを用いた筋トレは筋肉に十分な負荷を掛けやすいため、効果的に筋肥大や筋力を改善できます。
しかし、利便性や費用の面を考えると、特別な器具が不要な自体重(自重)で行う筋トレは時に有効な手段となり得ます。
特に若年者に比べ筋肉量や筋力が低い高齢者の場合、自重トレーニングによっても、十分なトレーニング効果が得られることも考えられます。

今回は、12週間の実験期間中、15分で実施できる自重トレーニングを毎日実施した場合のトレーニング効果を検証した論文を紹介します。

論文概要

出典

Tsuzuku, S., Kajioka, T., Sakakibara, H., & Shimaoka, K. (2018). Slow movement resistance training using body weight improves muscle mass in the elderly: A randomized controlled trial. Scandinavian journal of medicine & science in sports, 28(4), 1339–1344. https://doi.org/10.1111/sms.13039

方法
70歳以上の健康的な高齢者を対象(男性:53名、女性35名)

対象者はランダムに下記の2群に分類
・Slow Movement Resistance Training using Body Weight群(SRT-BW)
・コントロール群(CON)
最終的なデータ分析対象者はSRT-BWが42名、CONが44名

SRT-BWのトレーニング内容は下記のとおり
期間:12週間
頻度:7回/日
種目:スクワット、膝付きプッシュアップ、シットアップ
セット×回数:2×10(回数は4週ごとに2回漸増)
収縮時間:4秒/4秒(短縮性収縮/伸張性収縮)
時間:約15分/セッション
その他:何名かの対象者は膝付きプッシュアップとシットアップの実施が困難であったが、その場合、回数を減らすのではなく、可動域を狭めて実施
時間:約15分/回

実験期間前後の主な測定項目は下記のとおり
・形態・身体組成
身長、体重、BMI、ウエスト周径囲、ヒップ周径囲、腹部縦径(Sagittal Abdominal Diameter: SAD)、皮下脂肪・筋厚(超音波Bモード法)

・最大筋力
握力、等尺性膝関節伸展筋力、等尺性股関節屈曲筋力

結果
・SRT-BWのトレーニング順守率は91%

・SRT-BWでは、ウエスト周径囲、ヒップ周径囲、SAD、腹部脂肪、大腿部周径囲、大腿部皮下脂肪が減少し、大腿部の筋厚、等尺性膝関節伸展筋力、等尺性股関節屈曲筋力が増加した(いずれも群間差あり)

解説

この論文は、自重でできる15分の筋トレを12週間毎日継続することで、高齢者の身体組成(筋厚の増加、皮下脂肪の減少)と筋力が改善したことを示しています。
個人的には自重、3種目、低速(4秒/4秒)、毎日実施といった点に論文のオリジナリティがあると考えます。

中高齢者を対象とした自重トレーニングの効果を検証した先行研究の結果は一致しておらず、効果が認められたものと、認められないものがあります。
論文の著者らは、他の論文に比べて筋収縮時間が長いことが、ポジティブな結果に繋がった可能性を示唆しています。
(例えばスクワットであれば、12回×8秒×2セット×7回で週当たり1344秒の収縮時間)

加齢に伴い筋タンパクの合成速度は低下するため、高齢者ではトレーニング後の回復期間を慎重に設定することが多い一方、高齢者を対象として毎日実施するアプローチで効果が認められた点も興味深い知見です。
これは、自重で1回当たり15分というプログラムの特性が影響したのかもしれません。

まとめ

毎日15分の筋トレで高齢者の筋力・筋肉量は増加し、皮下脂肪は減少する