マラソン愛好家の睡眠と生活習慣

2024年1月17日

はじめに

レクリエーショナルランナーの中には、仕事や家事などとの狭間で、限られた時間を有効活用しながら一生懸命トレーニングをしている人がいます。
彼らや彼女らの高い動機は尊敬に値する部分もありますが、1日の時間は不変のため、睡眠時間が不足してしまう場合もあります。
また、慢性的には睡眠に良い持久系トレーニングであっても、急性的には身体を覚醒させ、寝つきに悪影響を与える可能性があります。
さらに、パフォーマンス向上に有益なカフェインも睡眠に悪影響を与えることがあります。

今回紹介する論文では、2016年のロンドンマラソンの参加者を対象に、睡眠状況と個人的特徴、生活習慣、マラソンパフォーマンスとの関係を調査しています。

論文概要

出典

Cook, J. D., Gratton, M. K. P., Bender, A. M., Werthner, P., Lawson, D., Pedlar, C. R., Kipps, C., Bastien, C. H., Samuels, C. H., & Charest, J. (2023). Sleep Health, Individual Characteristics, Lifestyle Factors, and Marathon Completion Time in Marathon Runners: A Retrospective Investigation of the 2016 London Marathon. Brain sciences, 13(9), 1346. (CC BY 4.0) https://doi.org/10.3390/brainsci13091346

方法
2016年のロンドンマラソンの参加者を対象
研究開始時は、65歳以上の高齢者も対象に含まれていたが、高齢者の回答者が少なかったことと、高齢者の生活習慣や走力が中年者と大きく異なる可能性を考慮し、分析から除外
最終的なサンプル数は2016年のロンドンマラソンを完走した943名(全レース完走者の2.41%)

下記アンケートを実施
・Athlete Sleep Screening Questionnaire (ASSQ)
ASSQは、運動選手の睡眠特性の把握を目的として設計された包括的な睡眠調査
睡眠の質、総睡眠時間、概日リズムの好み、不眠症、旅行中の睡眠障害、睡眠時の呼吸障害の問題という6つの主要な特徴を調べるため調査
Global Sleep Difficulty Score(SDS)は複数のスコアの合計値
SDSは0-4がなし、5-7が軽度、8-10が中等度、11-17が重度の睡眠問題があると評価

・個人の特徴
性別
年齢(18-39歳をYoung、40-64歳をMiddle)
マラソンのパフォーマンス(タイム、性別と年齢を考慮した基準タイムであるGFAより速いか遅いか)

・生活習慣
睡眠トラッカーデバイスの使用の有無
就寝前1時間における電子機器の利用有無・頻度
週当たりのアルコール摂取量
日々のカフェイン摂取量

結果
64.5%が男性、35.5%が女性
66.5%がYoung、33.5%がMiddle

23.5%がSDS8以上(フォローアップが必要な状態)

睡眠トラッカーを使う人は睡眠の満足度が低い

カフェインの摂取量が多い人は睡眠時間が短い

就寝前の電子機器の利用頻度が多い人は睡眠潜時が長い

睡眠潜時が長い人ほど、就寝前の電子機器の利用頻度が多いほど、マラソンタイムが長い

解説

この論文は、マラソンランナーを対象として、睡眠状況やそれに関連する生活習慣などとの関係を報告しています。

興味深い結果として、「睡眠トラッカーを使用する人は睡眠の満足度が低い」という点が挙げられます。
論文の著者らは、この結果をオルソムニアが関与している可能性があると考察しています。
オルソムニアは、端的に言うと、睡眠トラッカーが原因となる不眠症のことです。
熱心なマラソンランナーは、トレーニングや生活習慣に過度に気を配る傾向があり、そのためオルソムニアのリスクが高まる可能性があります。
また、基本的に睡眠トラッカーは睡眠の質を正確に評価できませんが、トラッカーや連携するアプリは睡眠の質に関するフィードバックを提供します。
このような不正確な情報をもとに、自分の睡眠状態にマイナスの印象を持っていた可能性も考えられます。

さらに、「就寝前の電子機器の利用頻度が高い人は睡眠潜時が長い」「睡眠潜時が長い人ほど、就寝前の電子機器の利用頻度が多いほど、マラソンタイムが長い」という結果も注目すべきです。
電子機器の特徴(光量の違い)や、どのような内容を視聴・聴取しているか(SNS、動画、音楽、読書等)によっても睡眠に与える影響が異なると考えられますが、健康とパフォーマンスの観点から、睡眠潜時が長くなるような電子機器の使用は避けるべきと言えます。

まとめ

睡眠トラッカーを使っているランナーは、睡眠に満足していない