マルチデー耐久レースで優れたパフォーマンスを発揮するには睡眠時間の確保が重要

はじめに

大学生アスリートを対象とした論文によると、睡眠時間が8時間未満に比べ8時間以上の日では、主観的体調が好ましい傾向があった上、怪我や病気のリスクが減ったことが示されています。


また、同じ筋トレプログラムを実施しても、睡眠習慣に関するアドバイスの有無によって、ボディーメーキングに与える影響が異なった(アドバイスを受けたグループの体脂肪減少が顕著)ことも明らかになっています。

これらは、睡眠時間の確保がアスリートのコンディショニングに重要な役割を果たしていることを示しています。

良質な睡眠の確保は日々のコンディショニングに加え、競技での優れたパフォーマンス発揮にも寄与する可能性があります。

今回は3日間にわたる超長時間耐久レース(ウルトラトライアスロン)のパフォーマンスと睡眠データとの関係を検証した論文を紹介します。

論文概要

出典

Kisiolek, J. N., Smith, K. A., Baur, D. A., Willingham, B. D., Morrissey, M. C., Leyh, S. M., Saracino, P. G., Mah, C. D., & Ormsbee, M. J. (2021). Sleep Duration Correlates With Performance in Ultra-Endurance Triathlon. International journal of sports physiology and performance, 1–8. Advance online publication. https://doi.org/10.1123/ijspp.2021-0111

方法
Ultraman Florida Triathlon(ステージ1:10kmスイム、146kmバイク、ステージ2:276kmバイク、ステージ3:84.4kmラン)の出場者40名のうち、同意が得られた18名を対象
レースを完走できなかった1名を除いた17名がデータ分析対象者

レースの2日前から睡眠データを手首に装着するタイプのアクチグラフで測定
測定データは下記のとおり
TST:総睡眠時間
SOL:入眠潜時
WE:睡眠時覚醒エピソード数
SE:睡眠効率

レース前2日間(ベースライン)、ステージ1の夜(ナイト1)、ステージ2の夜(ナイト2)、ステージ3の夜(ナイト3)のデータを取得

結果
■睡眠データの変化
・TSTは日に日に減少傾向
ベースラインとナイト3、ナイト1とナイト3との間に有意差あり
(ベースライン:414分、ナイト1:392分、ナイト2:356分、ナイト3:300分)

・SOL、WE、SEは有意差なし

■TSTとレースパフォーマンスとの関係
・ステージ1とステージ3では、直前のTSTと有意な負の相関関係あり
前日の睡眠時間が長いとレースタイムが短い傾向(ステージ1:r = -0.577、ステージ3:r = -0.546)

解説

この論文は、3日間にわたる超長時間耐久レースに出場したトライアスリートの睡眠データを測定した結果、睡眠時間が日に日に減っていたことや、睡眠時間が多いほどその後のレースパフォーマンスが優れていたことを示しています。

睡眠時間の短縮が持久系パフォーマンスに負の影響を与える要因としては、1) ストレスホルモン(コルチゾールなど)の増加、2) 過度な炎症や筋ダメージの誘発、3) 主観的運動強度(きつさ)の増加、4) 生理学的負荷(心拍数、血中乳酸濃度)の増加、などが考えられます。

日に日に睡眠時間が減った理由について、論文の著者らは、レースが早朝から長時間にわたり行われたことが影響したと考察していました。
実際、スタート時間が6時~7時、フィニッシュ時間は選手のパフォーマンスに依存するものの遅い場合は18時~19時であったことから、十分な睡眠時間の確保が難しい条件でした。
特にパフォーマンスに劣るランナーはレース時間が長くなることから、次の日のレース開始までの残された時間が短く、必然的に睡眠に費やせる時間も少なくなります。
したがって、この論文は因果関係の解釈を慎重にすべきです。

今回の論文は超長時間耐久レースを対象としていますが、複数日にわたり試合をするアスリートにとっても、最終日まで自分の持ち得るパフォーマンスを十分に発揮するために十分な睡眠時間の確保が大事だと思います。

まとめ

睡眠時間はマルチデースポーツのパフォーマンスの優劣に関与する可能性