たとえ同じ運動をしても日常生活の活動が不十分だとトレーニング効果が減弱する

2021年12月3日

はじめに

誰しも1日24時間という共通した枠組みの時間を過ごしますが、24時間をどう過ごすのかによって健康に与える影響は異なります

例えば、フィンランドの中年者を対象としたコホート研究では、座りがちあるいは睡眠の時間を低強度あるいは中-高強度の身体活動に充てることで、心血管系の健康度が向上する可能性が示されています。

また、特に近年では座りがちな時間が健康に悪影響を及ぼす影響が徐々に明確となっています。



今回は、歩数が異なる2つのグループが同じ有酸素運動を実施した際のトレーニング効果が異なるのかを検証した論文を紹介します。

論文概要

出典

Burton, H. M., Wolfe, A. S., Vardarli, E., Satiroglu, R., & Coyle, E. F. (2021). Background Inactivity Blunts Metabolic Adaptations to Intense Short-Term Training. Medicine and science in sports and exercise, 53(9), 1937–1944. https://doi.org/10.1249/MSS.0000000000002646

方法
習慣的なトレーニングを実施していない16名(男性8名、女性8名)を対象
男女の比率が均等になるようにランダムに下記の2群に割り当て
・アクティブ群(High step: HS)8名
→実験期間中はなるべく長いルートと歩き、1日を通しての歩数を確保
・座りがち群(Low step: LS)8名
→実験期間は必要最低限の歩数に留める

実験期間は下記の17日間
1-3日:プレ測定
4-14日:トレーニング期間
15-17日ポスト測定

プレ・ポスト測定の内容は下記のとおり
・高脂肪食負荷試験
→12時間の絶食状態でアイスクリーム・生クリーム(糖質:0.8g/体重kg、脂質:1.2g/体重kg、タンパク質:0.2g/体重kg)を摂取。摂取後6時間までの血液サンプル、呼気ガスを測定

・最大運動負荷試験(自転車運動)
→最高酸素摂取量を測定

・最大下運動負荷試験(自転車運動)
→79%最高酸素摂取量の強度で15分間実施。心拍数や呼気ガスなどを測定

トレーニング内容は下記のとおり
実施日:6日目、8日目、10日目、12日目、14日目
内容:20分@80%最高酸素摂取量→10分@休息→2×5分@90%最高酸素摂取量-5分@休息

急性応答をみるために1回目の運動の翌日(7日目)にも高脂肪食負荷試験を実施

結果
※数値は平均値

・トレーニング期間中の歩数はHSが高かった(HS:16048歩/日、LS:4767歩/日)

・高脂肪食負荷試験後の血液応答
→HSは急性応答(7日目)、慢性応答(ポスト測定)ともにベースラインと比べて1-3時間後までのトリグリセリド濃度、トリグリセリドの曲線下面積(Area under the Curve)が減少。一方、LSではベースライン、急性応答、慢性応答での有意差なし

・高脂肪食負荷試験後の呼気ガス応答
→HSは急性応答、慢性応答ともにベースラインと比べて呼吸交換比が減少(≒脂質代謝の亢進)。一方LSではベースライン、急性応答、慢性応答での有意差なし

・最大運動負荷試験
→両群ともにポスト測定で向上(HS:+7.6%、LS:+7.2%)

・最大下運動負荷試験
→血中乳酸濃度はHSのみポスト測定で有意な減少
→心拍数はHSのみポスト測定で有意な減少(HS:-12拍、LS:-5拍)
→主観的運動強度はHSのみポスト測定で有意な減少(LSは有意傾向)

解説

この論文は、日常生活の歩数が不十分の場合、たとえ同じ有酸素運動を行ったとしても、トレーニング効果が損なわれることを示しています。
具体的には、日々の歩数が5000歩未満のグループでは、高脂肪食負荷試験後の血液中のトリグリセリド濃度や最大下強度での自転車運動に関するトレーニング効果が得られませんでした

高脂肪食負荷試験後のトリグリセリド濃度が高いことは、中性脂肪の塊が血液中に長時間留まることを意味しており、動脈硬化や心血管イベントを引き起こす危険性を高めます。
したがって、特にメタボリックシンドロームや心血管疾患の予防・改善を目的とした場合、たとえ運動プログラムは十分な強度・量であったとしても、日常生活の過ごし方によっては期待された効果が得られない可能性があります。

また、最高酸素摂取量は両群ともに同等の向上が認められたものの、最大下負荷試験のトレーニング効果はLSで劣っていました。
最大下負荷試験の心拍数、血中乳酸濃度、主観的運動強度は持久系アスリートのパフォーマンスとも深く関係します。
したがって、スポーツパフォーマンス向上を目的とした場合でもトレーニング以外の日常生活の過ごし方によって効果が変わってくるかもしれません。
ただし、この論文は習慣的なトレーニングを行っていない人を対象としていたため、詳細は不明です。

日常生活の歩数が少ないときは座りがちな時間が多い場合が多いです。
座りがちな時間が増えると心身にネガティブな影響を与えるため、運動以外の身体活動量にも気を配っていくべきです。

まとめ

たとえトレーニングを頑張っても日常生活が不活動だと効果が減弱する