睡眠の質を高めるために重視すべき要因は?

はじめに

良質な睡眠の確保は健康的な生活を営む上で最優先事項です。
当サイトではこれまで食生活と睡眠の質との関連に着目した論文をいくつか紹介してきました。

例えば、女子大生を対象とした研究によると、睡眠の質が悪い人はエネルギー摂取量、総脂肪摂取量、飽和脂肪酸摂取量が多い傾向にありました。
また、睡眠の質は、野菜や乳製品の摂取量が多いと優れる一方、精製穀物や添加糖類の摂取量が多いと悪い傾向にありました。

睡眠の質に影響を及ぼし得る要因は食生活以外にも多々あります。
今回は、日本人労働者を対象に睡眠の質に影響を及ぼし得る多様な要因を調査し、睡眠の質との関連を検証した論文を紹介します。

論文概要

出典

Shimura, A., Sugiura, K., Inoue, M., Misaki, S., Tanimoto, Y., Oshima, A., Tanaka, T., Yokoi, K., & Inoue, T. (2020). Which sleep hygiene factors are important? comprehensive assessment of lifestyle habits and job environment on sleep among office workers. Sleep health, 6(3), 288–298. https://doi.org/10.1016/j.sleh.2020.02.001

方法
2017年4月-2019年4月に日本企業29社(所在地:東京)6342人を対象に調査を実施
うち研究参加への同意や調査への回答があった5640人がデータ分析対象

調査項目は下記のとおり
・Pittsburgh Sleep Quality Index(PSQI):睡眠の質
→スコアが6以上で睡眠の質が悪い(poor sleeper)とした

・Munich Chronotype Questionnaire (MCTQ):クロノタイプ
※クロノタイプと各要因との関係の結果は省略

・57-item Brief Job Stress Questionnaire (BJSQ):職業性ストレス
→仕事のストレッサー、ストレス反応、周囲のサポート、仕事や生活の満足度

・性別

・年齢

・婚姻状況

・居住環境

・生活習慣
→食事の規則性、朝食の頻度、夕食から就寝までの時間、野菜の摂取頻度、夜酒の頻度、18歳からの体重変動、寝室での起床時の日光暴露の有無、夜間の電子機器利用、夜間のカフェイン飲料の摂取頻度

結果
・回答者の特徴
年齢:36.9歳
男女比:男性が61.4%、女性が38.5%
PSQIのスコア:6.52
睡眠時間:6時間6分(就業日)、7時間39分(休日)
※男女比以外の数値は平均値

多変量解析の結果、睡眠の質に影響を及ぼした要因と調整済みオッズ比の数値は下記のとおり
・女性(男性と比較して1.222)
・婚姻状況(独身と比較して0.756)
・通勤時間(片道1時間当たり1.545)
・仕事のストレッサー(1ポイント当たり1.066)
・周囲のサポート(1ポイント当たり1.051)
・不規則な食事(規則的な食事に比べて1.449-2.858)
・就寝1-2時間前の夕食(2時間以上と比べて0.815)
・野菜の摂取頻度が毎日未満(毎食に比べて1.348)
・夜酒(夜酒なしに比べて2.736-3.552)
・18歳以降の体重増加(5kg未満の変化に比べて1.204-1.423)
・日光暴露の有無(寝室での暴露ありに比べて1.483-1.596)
・夜間の電子機器利用(就寝前1時間前の利用なしに比べて1.497)
・カフェイン飲料の摂取(夜間の摂取なしに比べて1.267)

解説

この論文は睡眠の質に影響を及ぼし得る要因を包括的に調査しています。
日本人労働者5000人以上を対象としているため、我々日本人に有益な示唆を与えるデータです。

得られた結果は、仕事のストレッサーや周囲のサポート、通勤時間といった仕事に関する要因に加え、生活習慣(不規則な食事、就寝前の食事、夜酒、体重変動、起床時の日光暴露、夜間の電子機器利用)が独立して睡眠の質に影響を及ぼすことを示しています。

興味深い結果は、就寝1-2時間前の夕食のオッズ比は、2時間以上と比較して低かったことです。
これは、夕食は就寝の2時間以上前に摂るより、1-2時間前に摂った方が睡眠の質に好影響を及ぼしたことを意味しています。
一般的に就寝の直前に食事を摂ると、消化や深部体温の上昇によって、睡眠の質を妨げる上、健康に悪いと認識されているため、この結果は意外です。

ただし、球技アスリートを対象とした研究によると、夕食あるいは夕食以降の最後の飲食と就床時刻までの間隔が長くなるほど総睡眠時間が短くなることが示されています。


また、中高齢者を対象とした研究によると、就寝2時間以内に習慣的に食事を摂っていても、血糖コントロールに悪影響がなかったことも示されています。

したがって、そもそも就寝前の食事のタイミングは一般的な認識と実際に身体に与える影響との間にギャップが大きいのかもしれません。

なお、この論文では就寝1時間以内に夕食を摂ったグループも検証していますが、2時間以上と比べオッズ比は有意ではありませんでした。
したがって、夕食と就寝時間との間隔は、短すぎても長すぎても睡眠の質を高めることにはならず、ちょうど良い塩梅(1-2時間前)があると考えられます。

睡眠の質に影響する要因は多種多様です。
個人的には、睡眠の質に及ぼす影響は個人の置かれた状況によって振る舞いが異なるため、この論文で示された要因を参考に、睡眠の質に影響を与えている要因をいくつかピックアップしながら、試行錯誤を重ね、改善を図ることが大切だと考えています。

まとめ

労働者の睡眠の質は仕事に関係する要因に加え、多種多様な生活習慣が影響する