初心者ランナーは10%ルールに従って距離を踏んでも怪我のリスクは減らせない

はじめに

レクリエーショナルあるいは健康増進目的としたスポーツ活動であっても、スポーツ傷害(怪我)は発生します。
初心者にとって怪我は、トレーニングの継続を妨げ、スポーツ活動への動機を失う原因にもなり得ます。

ランニング現場では、「10%ルール」と呼ばれる一つの目安があります。
これは、週当たりのトレーニング量(距離あるいは時間)の増やし方を10%以内に留める、言い換えると前週に比べて10%以上トレーニング量を増やすべきではないという考えです。

今回紹介する論文では、初心者向けのランニングトレーニングプログラムを10%ルールに基づいた場合、ランニング障害の発生率が減るのかを検証しています。

論文概要

出典

Buist, I., Bredeweg, S. W., van Mechelen, W., Lemmink, K. A., Pepping, G. J., & Diercks, R. L. (2008). No effect of a graded training program on the number of running-related injuries in novice runners: a randomized controlled trial. The American journal of sports medicine, 36(1), 33–39. https://doi.org/10.1177/0363546507307505

方法
ローカルメディアの広告を通して、4マイルランニング大会に向けた初心者向けのトレーニングプログラムへの参加者を募集
対象者たちは、下記の2群にランダムに割り当て
・Graded training program(10%ルール群)
・Standard training program(非10%ルール群)

10%ルール群は13週間、非10%ルール群は8週間のプログラム
両群ともにトレーニング頻度は3回/週、ランニングコースは各自の任意、ペースは「呼吸が乱れない範囲の心地よいペース」

10%ルール群 非10%ルール群
ラン ウォーク 合計 前週との変化 ラン ウォーク 合計 前週との変化
分/週 分/週 分/週 分/週 分/週 分/週
1 30 30 60
2 34 25.5 59.5 0.99
3 36 24 60 1.01
4 40 20 60 1.00
5 44 22 66 1.10
6 48 16 64 0.97 30 30 60
7 54 18 72 1.13 46 22 68 1.13
8 56 18 74 1.03 60 18 78 1.15
9 64 14 78 1.05 50 16 66 0.85
10 72 18 90 1.15 74 16 90 1.36
11 80 15 95 1.06 90 21 111 1.23
12 90 0 90 0.95 95 5 100 0.90
13 30 0 30 0.33 30 0 30 0.30

ランニング障害の定義は、「1週間以上ランニングをするのに支障を来す下肢あるいは背中の筋骨格系の痛み」

結果
広告をみてリクエストをした者が603名、そこから参加基準を満たさなかった者(初心者ランナーでなかった者など)やベースライン調査に回答がなかった者などを除いた532名をランダム割付(10%ルール群:264名、非10%ルール群:268名)

最終的なデータ分析者は10%ルール群が250名、非10%ルール群が236名

ランニング障害の発生率は10%ルール群が20.8%、非10%ルール群が20.3%で群間差なし
Survival Curvesでみても群間差なし
BMIで調整したCox回帰分析でも群間差なし

解説

この論文は、初心者ランナーを対象として、10%ルールに基づいて週当たりのトレーニング時間を徐々に増やしても、10%ルールに基づかなかった場合(10%以上増やしたり、減らしたりしていたトレーニング)に比べて、ランニング障害の発生が減らなかったことを示しています。

論文の著者らは、この理由について次の3点を挙げています。
1. 二つのトレーニングプログラムには結果に差が生まれるまでの違いがなかった
2.トレーニングの強度が影響を与えた
(心地よいペースで走るように指示したものの、強度に関する指標を定量していなかった)
3.トレーニング頻度が一緒だった

どのような傷害であっても、ありとあらゆる要因が影響し得るので、一つの指標だけをコントロールしても、統計学的に有意差が生じる結果を出すのは困難なように思います。

まとめ

トレーニング時間だけをコントロールしても、ランニング障害を減らせるわけではない