ウルトラトレイルで起こる胃腸症状とメンタリティとの関連

2022年2月11日

はじめに

ウルトラマラソンで頻繁に起こるGastrointestinal symptoms(胃腸症状)は、レースパフォーマンスに悪影響を及ぼす他、DNF(did Not Finish)・リタイアの主要因です。

運動誘発性胃腸症状の発生メカニズムは非常に複雑ですが、現場では心理的特徴が関係するという指摘があります。
実際、脳腸相関(brain-gut interaction、ヒトにおいて脳と腸が互いに影響を及ぼす双方向的な関連を持っていること)という専門用語があるとおり、精神的ストレスは自律神経を介し消化管運動に影響を及ぼします。

今回紹介する論文は、レース前の心理状態と56kmウルトラトレイルレース中の胃腸症状との関連を検証しています。

論文概要

出典

Urwin, C. S., Main, L. C., Mikocka-Walus, A., Skvarc, D. R., Roberts, S., Condo, D., Carr, A. J., Convit, L., Jardine, W., Rahman, S. S., & Snipe, R. (2021). The Relationship Between Psychological Stress and Anxiety with Gastrointestinal Symptoms Before and During a 56 km Ultramarathon Running Race. Sports medicine – open, 7(1), 93. https://doi.org/10.1186/s40798-021-00389-5

方法
2020 Two Bays Trail 56 km Ultramarathonの出場ランナーを対象
データ分析対象者は44名(男性26名、女性18名)

レースの1-3日前に下記調査を毎日実施
・Competitive State Anxiety Inventory-2(CSAI-2):不安に関する尺度

・Short Recovery and Stress Scale(SRSS):ストレスやリカバリーに関する尺度

・胃腸症状に関する尺度:14の症状の有無とその重大度

・便日記

加えて、レース30-60分前にはCSAI-2、SRSS、胃腸症状に関する調査を実施
レース後は胃腸症状に関する調査のみ実施

主にレース前の不安、ストレス、リカバリーのスコアとレース後の胃腸症状との関連を検証

結果
・レース後に報告された胃腸症状の数は3.2(平均値)
→鼓腸(胃腸内にガスが溜まること)、げっぷが最も頻繁に報告

・胃腸症状はレース前の心理状態(リカバリー、ストレス、不安)と有意な相関関係

・回帰分析によると、体重、ストレス、不安、レース前の胃腸症状によって胃腸症状の重大度が36%、数が40%説明可能

解説

この論文は、ウルトラトレイルレース出場者を対象として、レース前の心理状態とレース後に報告された胃腸症状との関連を検証した結果、レース前の不安、ストレス、リカバリーといった心理状態が胃腸症状と関連していたことを明らかにしました。

この論文は、あくまでも関連を示した研究です。
また、先行研究のエビデンスを含めても因果関係の断定は困難です。
実際、論文の著者らも心理状態(ストレス・不安の上昇、リカバリーの低下)が胃腸症状に寄与するのか、それとも胃腸症状が心理状態に寄与するのかは不明、と考察で指摘しています。

仮に心理状態が胃腸症状の発生に寄与する場合、そのメカニズムとしてはコルチコトロピン放出因子(CRF)の関与が考えられます。
CRFは自律神経活動に影響を及ぼし、内臓への血流量減少や消化管の透過性増加を引き起こします。
実際、CRF拮抗薬を投与することによって、胃腸症状が改善されることも医学研究で報告されているようです。

ウルトラマラソンではレース中、様々な困難と向き合い克服することが求められますが、日々のトレーニングによる体力強化やレースで摂る飲食物への事前の慣れは、不安の軽減や自信を高めることに繋がり、結果として胃腸症状対策に繋がるのかもしれません。

まとめ

ウルトラトレイルレースで起こる胃腸症状はレース前のメンタリティと関連