出来なくなるまで頑張る筋トレはダメージが著しい

はじめに

以前、限界まで実施する筋トレは翌日の最大筋力を低下させることを報告した論文を紹介しました。

その研究では、限界まで行った方法(Training to failure法:TF法)、行わなかった方法(Training to not failure法:TNF法)のいずれも強度は75%1RMでした。
また、筋ダメージや筋合成・分解に関係する血液マーカーの指標は計っていませんでした。

今回紹介する論文では、異なる強度(70、75、80、85、90%推定1RM)をTNF法とその半分でセットを終えるTNF法で実施した際の筋機能や血液マーカーからみた回復動態を検証しています。

論文概要

出典

Pareja-Blanco, F., Rodríguez-Rosell, D., Aagaard, P., Sánchez-Medina, L., Ribas-Serna, J., Mora-Custodio, R., Otero-Esquina, C., Yáñez-García, J. M., & González-Badillo, J. J. (2020). Time Course of Recovery From Resistance Exercise With Different Set Configurations. Journal of strength and conditioning research, 34(10), 2867–2876. https://doi.org/10.1519/JSC.0000000000002756

方法
10名の男子学生対象
(2-4年のレジスタンストレーニングの経験を持つスポーツ科学科の学生)

対象者は20週間にわたり、10の異なる筋トレプログラムをランダムに実施
(各プログラムの間には14日を挟んだ)

10種類のプログラムは下記のとおり
反復回数(推定の最大反復回数)が12(12)、6(12)、10(10)、 5(10)、8(8)、4(8)、6(6)、3(6)、4(4)、2(4)
→おおよそ70、75、80、85、90%1RMに相当

プログラム実施方法は下記のとおり
実施種目はベンチプレスとスクワット
強度はload-velocity関係をもとにその都度設定
ベンチプレス前のW-upとして、3分間の上半身モビリティエクササイズと20kgの重量でのベンチプレスを2セット×8回実施
ベンチプレスとスクワットの間には10分間の休息を設定
スクワット前のW-upとして、5分間のジョギング、2セット×30mの加速走、2セット×10回の自体重スクワット、徐々に強度を高める5回の垂直跳び(CMJ)を実施
その後、垂直跳びの跳躍高を3回計測

評価項目と計測タイミングは下記のとおり
血液マーカー
CK、IGF-1、テストステロン、コルチゾール、成長ホルモン、プロラクチン
24時間前、直後、48時間後

筋機能
ベンチプレス・スクワットの速度低下率、ベンチプレス・スクワットの1m/sの重量、垂直跳びの跳躍高
プレ、直後、6時間後、24時間後、48時間後

結果
ベンチプレス・スクワットの平均速度低下率はTF法で著しい
その中でも反復回数が多い場合にさらに著しい(ベンチプレスで60%以上、スクワットで40%以上の低下)

ベンチプレス・スクワットの1m/sの重量、垂直跳びに時間×プログラムの交互作用あり
TF法のいくつかのプログラムでは24時間後でもプレの数値まで回復していない

コルチゾール、テストステロン、成長ホルモン、プロラクチン、CKに時間×プログラムの交互作用あり
成長ホルモンの直後は10(10)でのみ直後に増加
プロラクチンは12(12)、10(10)でのみ直後に増加
CKは5(10)を覗いた全プログラムで48時間後に増加し、12(12)、10(10)、8(8)で特に顕著な増加(400UI/L以上)

解説

この論文は主に次の2点を明らかにしました。
1) 限界まで行う筋トレは筋機能、血液マーカーからみて顕著なダメージを与える
2) 限界まで行う筋トレの中でも高強度低回数型(80-90%1RM)に比べると、中強度中回数型(70-75%1RM)のダメージがより顕著

以前は、限界まで行う筋トレは筋肥大刺激として有効と考えられていました。
しかし、最近では総負荷量が一緒の場合には、必ずしも限界まで行う必要性がないとされています。
以前紹介した論文でも、高強度(80%1RM)の場合はオールアウトの有無に関わらず、筋力向上、筋肥大ともに優れた効果が獲得できることを報告しています。

トレーニングの目的によっても最適なアプローチは異なりますが、ある程度の強度を用いた場合には、基本的には限界まで行うトレーニングは必須ではありません。

この論文の著者らは現場への示唆として、「速度低下率の少ないレジスタンストレーニング(ベンチプレス:25%、スクワット:20%)は、アスリートが新しいトレーニングを行う際や競技期において、神経筋のコンディションからみた優れたアプローチとなる」と述べていました。

まとめ

限界まで行う筋トレの中でも、70-75%1RMの重量を用いると、80-90%1RMの重量を用いた場合に比べてダメージが大きい